マイクロ法人だからできる福利厚生・退職金づくり|企業型DC・法人保険・退職金規程【2026年版】

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マイクロ法人だからできる福利厚生・退職金づくり|企業型DC・法人保険・退職金規程【2026年版】

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「社員が自分ひとりでも、福利厚生って作れるの?」
「企業型DCは、iDeCoより枠が大きいと聞いたけれど本当?」
「一人社長の退職金は、どうやって準備すればいい?」

前提を確認しておきます。この記事のマイクロ法人とは、個人事業を続けながら、役員が自分ひとりの小さな会社(実務では合同会社が多く、株式会社でも可)を別に持ち、その会社からの役員報酬を低めに抑えることで社会保険料の負担を軽くする「マイクロ法人スキーム」の器のことです。仕組みの前提が曖昧な方は、先にマイクロ法人 社会保険料削減スキームの完全解説をご覧ください。

私は現役のマイクロ法人社長ですが、「福利厚生」と聞くと大企業の話だと思っていました。ところが顧問税理士の先生から「一人でも会社は会社なので、規程さえきちんと作れば使える制度はあります」と言われ、いくつか整えてみて考えが変わりました。ただし、マイクロ法人特有の落とし穴もあります。この記事でわかることは次のとおりです。

  • 一人社長でも使える福利厚生・退職金制度の全体像
  • それぞれが経費として認められるための条件と、規程整備の必要性
  • 役員報酬が低いマイクロ法人ならではの注意点(社会保険との関係)
  • 導入コストと手間が見合うかを判断する軸

全体像:制度は「積立系」と「実費系」に分けて考える

一人社長が使える仕組みは、大きく2つに分かれます。将来のためにお金を積み立てるものと、その年に発生した費用を会社が負担するものです。混ぜて考えると判断がぶれるので、分けて整理しましょう。

区分 主な制度 会社側の扱い 導入の手間
積立系 企業型確定拠出年金(企業型DC) 会社が拠出する掛金は損金になるのが一般的 規約の作成・運営管理機関との契約が必要。重め
積立系 前払い退職金制度(確定給付企業年金の仕組みを使ったもの) 掛金は損金になるのが一般的 加入手続きと規程整備が必要。重め
積立系 法人契約の生命保険 商品と解約返戻率によって損金にできる割合が変わる 契約のみ。ただし商品選びの判断が難しい
実費系 健康診断 条件を満たせば福利厚生費として処理できる場合がある 軽い。規程があると説明しやすい
実費系 出張旅費規程に基づく日当 規程どおりの支給なら経費になり得る 規程作成のみ。比較的軽い
退職時 役員退職慰労金 適正額であれば損金になり得る 規程と決議が前提。原資の確保も必要

企業型DC:枠は大きいが、マイクロ法人では効きにくい面もある

企業型確定拠出年金は、会社が掛金を拠出して従業員(役員を含む)の年金資産を積み立てる制度です。他に企業年金がない場合の事業主掛金の上限は月額5.5万円が目安とされており、金額だけを見ればiDeCoより枠が大きくなるケースがあります。掛金は会社の損金となり、社会保険料の算定対象にもならないのが一般的な扱いです。

ここまで読むと万能に見えますが、マイクロ法人では次の点を冷静に見る必要があります。

  • そもそも原資があるか:役員報酬を低く抑えているため、そこから掛金を出す余地が小さいことが多い
  • 選択制で報酬から振り替える場合の副作用:報酬の一部を掛金に振り替えると、標準報酬月額が下がり、将来の厚生年金や傷病手当金などの給付が目減りする可能性がある
  • 下限との関係:厚生年金の標準報酬月額の下限は88,000円です。もともと最低等級付近で設定している場合、振り替えによる社会保険料の削減効果はほとんど期待できません
  • 運営コストと手間:規約の作成、運営管理機関との契約、毎月の事務など、導入と維持に一定の負担がかかります

つまり、企業型DCは「役員報酬をある程度出している法人」でこそ効く仕組みで、報酬を最小限に抑えるマイクロ法人スキームとは、狙いがぶつかりやすい面があるということです。役員報酬の水準そのものを見直すかどうかは役員報酬はいくらが最適かで整理していますので、あわせてご検討ください。

前払い退職金制度も考え方は同じ

給与の一部を掛金に振り替えて退職金として積み立てる、確定給付企業年金の仕組みを使った制度もあります。掛金が社会保険料の算定対象外になる点が注目されがちですが、標準報酬月額が下がることによる給付面への影響という副作用は企業型DCと共通です。マイクロ法人のようにもともと報酬が低い場合、削減効果は限定的になりやすいと考えておくのが現実的です。年金への影響についてはマイクロ法人にすると将来の年金は減る?で詳しく扱っています。

法人契約の保険:「全額損金」を前提にしない

退職金の原資づくりとして法人契約の生命保険を検討する方は多いですが、ここは慎重に見てほしいところです。かつては保険料の全額を損金にできる商品が広く使われていましたが、2019年の税制改正以降、解約返戻率の水準に応じて損金にできる割合が制限される取り扱いになっています。

また、マイクロ法人は毎月の保険料を払い続ける体力が限られます。途中で払えなくなって解約すると、思ったより戻ってこないという事態にもなりかねません。私が先生から言われたのは「保険は税金の話ではなく、保障とキャッシュフローの話として判断してください」ということでした。商品ごとに取り扱いが異なるため、加入前に必ず税理士に確認してください。

実費系:手間が軽く、一人社長でも取り入れやすい

導入コストという意味で現実的なのは、こちらです。

  • 健康診断:一般的な健診の範囲で、会社が医療機関へ直接支払う形にするのが基本です。役員のみの会社でも対象になり得ますが、判断が分かれる論点でもあります。制度の内容や費用補助についてはマイクロ法人社長も健康診断を受けられる?をご覧ください
  • 出張旅費規程に基づく日当:規程を整備し、規程どおりに支給することが前提です。金額は世間一般の水準からかけ離れないようにします
  • 慶弔見舞金規程:社会通念上妥当な範囲であれば福利厚生費として扱える場合があります

いずれも共通するのは、①規程があること ②金額が常識的であること ③現金の手渡しではなく制度として運用されていることの3点です。一人社長だと「規程を作る意味があるのか」と感じるかもしれませんが、規程がないまま支出だけがあると、後から説明できません。

退職金:マイクロ法人でいちばん大きな出口

長い目で見たとき、一人社長にとって最も金額の大きい福利厚生は役員退職慰労金かもしれません。退職所得は、給与や配当と比べて税制上の取り扱いが優遇されているためです。ただし、次の条件が揃っていないと成立しません。

  • 役員退職慰労金規程を整備していること
  • 支給について適法な決議を行い、記録を残していること
  • 金額が不相当に高額でないこと(在任年数や最終報酬額などを踏まえた説明ができること)
  • 会社に支払う原資があること

役員報酬を低く抑えるマイクロ法人では、退職金の算定の基礎になる金額も小さくなりがちです。そのため「退職金で大きく取り返す」という設計は、思ったほど効かないこともあります。ここは期待値を先に整えておいたほうが、後でがっかりせずに済みます。

導入するかどうかの判断軸

制度を並べると全部やりたくなりますが、マイクロ法人では次の順で考えると整理しやすいと思います。

  • ①手間が軽く効果が確実なものから:健康診断、出張旅費規程など
  • ②個人側の制度で足りないかを確認する:iDeCo・小規模企業共済との併用の考え方は節税制度の併用マップにまとめています
  • ③積立系は「原資があるか」で判断する:役員報酬が低い状態では、そもそも振り替える原資が足りないことが多い
  • ④導入コスト・維持の手間と、得られる効果を金額で並べる:年間の運営コストが効果を上回るなら見送る勇気も必要

制度は入れること自体が目的ではありません。私も一度は企業型DCを検討しましたが、報酬水準と手間を並べて考えた結果、当面は見送るという判断をしました。同じ結論が誰にでも当てはまるわけではないので、ご自身の数字で確認してみてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 社員が自分ひとりでも「福利厚生費」は使えますか?

A. 使える余地はありますが、条件が厳しめに見られる傾向があります。全従業員を対象とした制度であること、金額が常識的であること、規程に基づいて運用されていることが前提です。判断に迷う支出は税理士に確認してください。

Q. 企業型DCとiDeCoは、どちらを選ぶべきですか?

A. 一概には言えません。掛金の上限は大きくても、導入と維持の手間・コストがかかります。役員報酬の水準、他の制度の利用状況、続けられる期間で判断が変わるので、金額だけで比べないほうが安全です。

Q. 法人保険に入れば節税になりますか?

A. 「必ず節税になる」とは言えません。商品によって損金にできる割合が異なりますし、支払いが続けられるかというキャッシュフローの問題もあります。保障の必要性から検討し、税務の取り扱いは事前に確認してください。

Q. 規程は自分で作ってもいいのですか?

A. 自作すること自体は可能です。ただし内容が実態と合っていなかったり、金額が過大だったりすると意味をなしません。ひな形をそのまま使うのではなく、自社の運用に合わせて調整し、可能なら専門家に確認してもらうのが安心です。

Q. 退職金はいくらまで出せますか?

A. 一律の上限が決まっているわけではなく、在任年数や最終報酬額などを踏まえた妥当性で判断されます。金額が不相当に高額とされると損金にならない可能性があるため、支給前に税理士へ相談してください。

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まとめ:規程を整えたうえで、軽いものから順に

この記事の要点を整理します。

  • 一人社長でも使える制度はあるが、共通の前提は「規程・常識的な金額・制度としての運用」
  • 企業型DCは掛金の枠が大きい一方、報酬が低いマイクロ法人では原資と効果の面で噛み合いにくい
  • 報酬から掛金へ振り替える方式は、標準報酬月額が下がり給付が目減りする可能性がある
  • 法人保険は「全額損金」を前提にせず、保障とキャッシュフローで判断する
  • 健康診断・出張旅費規程など、手間が軽い実費系から着手するのが現実的

福利厚生や退職金の制度は、うまく使えば一人社長の会社でも意味のある備えになります。ただ、どれも入れさえすれば有利になるという性質のものではありません。導入コストと効果を自分の数字で並べたうえで、実行前に顧問税理士へ相談することをおすすめします。

※本記事は2026年7月時点の法令・運用を前提とした、筆者個人の理解と顧問税理士から聞いた内容に基づくものです。実際の判断は、顧問税理士・各機関にご確認のうえご自身の責任でお進めください。

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