【2026年版】マイクロ法人の最低等級でも傷病手当金・出産手当金はもらえる?支給額と手続きを試算
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「マイクロ法人で協会けんぽに入ったら、病気で働けないとき傷病手当金はもらえるの?」
「役員報酬を最低額にしていたら、支給額はいくらになる?」
「出産手当金は? 国保時代はもらえなかったけど…」
マイクロ法人スキームの説明では「社会保険料がいくら安くなるか」ばかりが注目されますが、実は「もらえる給付が増える」側面も見逃せません。ここで言うマイクロ法人とは、個人事業主が別途、自分ひとりが役員の法人(合同会社が主流、株式会社でも可)を立ち上げ、役員報酬を最小限に設定して社会保険料の負担を抑える「マイクロ法人スキーム」で使う法人のこと。スキームの全体像はマイクロ法人 社会保険料削減スキームの完全解説で解説しています。
結論を先に言うと、国民健康保険には原則存在しない「傷病手当金」「出産手当金」が、マイクロ法人で健康保険(協会けんぽ)に入ると両方とも対象になります。最低等級だと金額は多くありませんが、「国保ならゼロだったもの」がもらえるようになる——これはスキームの隠れたメリットです。一方で、役員ならではの論点(報酬が出ている間は支給されない等)もあるので、そこも含めて誠実に整理します。
この記事では、現役のマイクロ法人社長として、顧問税理士の先生から教わった内容も交えて、
- 国保と健康保険の給付の違い(傷病手当金・出産手当金の有無)
- 役員が傷病手当金をもらうときの論点(報酬の取り扱い)
- 最低等級(標準報酬月額58,000円)での支給額の試算
- 支給期間・加入12か月未満の特例・手続きの流れ
- 労災・雇用保険は対象外という現実と、その備え方
を順番に見ていきます。
国保には傷病手当金・出産手当金が「ない」。健康保険にはある
まず制度の違いから。個人事業主が入る国民健康保険では、傷病手当金・出産手当金は法律上「任意給付」とされており、実施している市区町村は事実上ほぼありません(コロナ禍で被用者向けの特例支給が話題になりましたが、恒常的な制度としては実施例がほぼ無いのが実情です)。つまり個人事業主は、病気で1か月働けなくても、出産で仕事を休んでも、公的な休業補償は基本的にゼロでした。
これに対して、マイクロ法人を設立して協会けんぽ(健康保険)の被保険者になると、傷病手当金・出産手当金の両方が法定給付として対象になります。役員報酬を最低等級に抑えていても、被保険者であることに変わりはありません。設立後にどうやって国保から健康保険へ切り替えるかは設立後の社会保険切り替え手続きにまとめています。
ただし役員には論点あり:「報酬が出ている間」は支給されない
ここは誠実に書いておきたいポイントです。傷病手当金は「療養のため労務に服することができない」ことが支給要件で、さらに休んでいる間に報酬が支払われていると、その分は支給されない(報酬が日額より少ない場合は差額支給)という仕組みです。
会社員なら「欠勤して給料が止まる」状態が自然に発生しますが、役員報酬は毎月定額で払い続けるのが原則。つまりマイクロ法人の社長が傷病手当金を受け取るには、「働けない期間は役員報酬を支払わない(または減額する)」という株主総会・社員総会の決議とセットで考える必要があります。私も顧問税理士の先生から「長期離脱が見えた時点で、報酬をどうするかの決議を先に整えるのが実務の段取り」と教わりました。議事録を残し、実際に支払いを止めた事実を作ってから申請する、という順番です。
なお、役員報酬の減額は定期同額給与(法人税の損金算入ルール)との関係も出てくるため、実行前に税理士への確認をおすすめします。役員報酬の設計全般は役員報酬はいくらが最適かもあわせてどうぞ。
最低等級での支給額を試算:日額約1,289円・月約3.9万円
では、いくらもらえるのか。傷病手当金・出産手当金の日額は次の式で計算します。
日額 = 支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3
マイクロ法人の定番である最低等級(標準報酬月額58,000円)で12か月加入していた場合の試算がこちらです。
| 項目 | 試算(標準報酬月額58,000円) |
| 日額 | 58,000円 ÷ 30 × 2/3 ≒ 約1,289円 |
| 1か月(30日)休んだ場合 | 約1,289円 × 30日 ≒ 約3.9万円 |
| 出産手当金(産前42日+産後56日=98日) | 約1,289円 × 98日 ≒ 約12.6万円 |
正直、月約3.9万円は生活費として十分な額ではありません。ただ、国保のままなら同じ状況で「ゼロ円」だったことを考えると、「最低等級の保険料でこの給付が付いてくる」と捉えるのが実態に近い評価だと思います。過大な期待は禁物、でもゼロよりは確実にまし——このくらいの温度感で見ておくのが誠実なところです。
加入12か月未満の場合の特例
設立して間もない時期に傷病・出産が重なった場合はどうなるか。支給開始日以前の加入期間が12か月に満たないときは、「自分の標準報酬月額の平均」と「全被保険者の標準報酬月額の平均(おおむね30万円前後の水準)」の低いほうで計算されます。最低等級のマイクロ法人社長なら自分の平均(58,000円)のほうが低いため、結果として支給額は上の試算と変わりません。「加入直後だからもらえない」わけではない、という点だけ押さえておけばOKです。
支給期間と、出産関連給付の正確な整理
傷病手当金:支給開始から「通算」1年6か月
傷病手当金は、同一の傷病について支給開始日から通算して1年6か月分まで支給されます。以前は「暦の上で1年6か月」でしたが、法改正により途中で復帰した期間は数えず「通算」できるようになっています。連続3日間の待期(有給・土日含む)を満たした4日目から支給対象です。
出産手当金:産前42日+産後56日
出産手当金は出産予定日以前42日(多胎は98日)+出産日後56日のうち、仕事を休み報酬の支払いがなかった期間が対象です。役員でも、この期間の役員報酬を支払わない扱いにすれば対象になり得ます。
出産育児一時金(50万円)は国保でも健保でも同額
混同しやすいのですが、出産費用に充てる出産育児一時金(原則50万円)は国保・健康保険のどちらでも同額です。ここではマイクロ法人化による差はつきません。差がつくのは、あくまで休業補償である出産手当金(国保はゼロ、健保はあり)のほうです。
労災・雇用保険は対象外:役員の「働けないリスク」への備え
給付が手厚くなる話の一方で、忘れてはいけない現実もあります。法人の役員は原則として労災保険・雇用保険の対象外です。仕事中のケガでも労災給付はなく、廃業しても失業給付はありません。
- 民間の就業不能保険・所得補償保険:傷病手当金だけではカバーしきれない生活費の穴を埋める選択肢。個人事業の収入が大きい人ほど検討価値があります
- 労災の特別加入:中小事業主等として労働保険事務組合経由で特別加入できる場合があります。業種・体制によるので、必要な方は事務組合や社労士に確認を
なお、将来の年金がどうなるかという別軸の給付の話はマイクロ法人にすると将来の年金は減る?で詳しく試算しています。
女性フリーランスにとっての出産手当金の価値
個人的に、このテーマで一番お伝えしたいのがここです。女性の個人事業主・フリーランスは、国保時代は出産で仕事を止めても休業補償が一切ありませんでした。マイクロ法人を作って健康保険の被保険者になっていれば、産前産後98日分の出産手当金(最低等級でも約12.6万円)の対象になり、さらに産前産後期間中の社会保険料(健康保険・厚生年金)は申し出により本人・法人とも免除される制度もあります。
金額の多寡だけでなく「制度の対象に入る」こと自体の意味が大きく、出産を視野に入れている方にとっては、社会保険料の削減額と並ぶ検討材料になり得ます。配偶者や家族の扶養との関係はマイクロ法人を作ると配偶者の扶養はどうなる?もあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 申請はどこにどうやって出しますか?
A. 協会けんぽの支部に傷病手当金支給申請書(または出産手当金支給申請書)を提出します。医師の意見欄の記入が必要で、事業主の証明欄は自分の法人として記入します。ひとり法人だと「事業主が自分」なので書類上は自己証明に近くなりますが、報酬台帳や賃金支払いの事実と整合していることが重要です。
Q. 役員報酬を止めずに減額しただけでも傷病手当金は出ますか?
A. 支払われている報酬が傷病手当金の日額より少ない場合は、差額が支給される仕組みです。ただし最低等級だと日額約1,289円(月換算約3.9万円)に対し役員報酬月45,000円前後を払い続けると差額はほぼ出ません。実務上は「支払いを止める」決議とセットが基本形になります。
Q. 個人事業のほうの仕事を続けていたら支給されませんか?
A. 傷病手当金は「労務に服することができない」ことが要件なので、二刀流で個人事業の仕事を普通に続けていれば、働ける状態と判断されて支給されない可能性が高いです。療養の実態が伴っていることが大前提で、虚偽申請は返還・ペナルティの対象です。
Q. 出産手当金の期間中、社会保険料はどうなりますか?
A. 産前産後休業期間中は、申し出により被保険者・事業主双方の健康保険・厚生年金保険料が免除されます。年金事務所への産前産後休業取得者申出書の提出が必要です。免除期間中も被保険者資格は継続し、年金記録上も納付扱いになります。
Q. 国保組合(建設国保・文芸美術国保など)と比べるとどうですか?
A. 国保組合の中には独自に傷病手当金類似の給付を持つところもあり、一概に健康保険が上とは言えません。ご自身が国保組合に加入中の方は、現在の給付内容と保険料を確認したうえで比較してください。
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まとめ:金額は小さいが「ゼロがゼロでなくなる」のが本質
- 国保に原則ない傷病手当金・出産手当金が、マイクロ法人の健康保険では両方対象になる
- ただし役員は「報酬が出ている間は支給されない」。支払い停止・減額の決議とセットで考える
- 最低等級(標準報酬月額58,000円)なら日額約1,289円・月約3.9万円。多くはないが国保のゼロよりまし
- 加入12か月未満でも特例計算で支給対象。傷病手当金は通算1年6か月、出産手当金は産前42日+産後56日
- 出産育児一時金(50万円)は国保でも同額。役員は労災・雇用保険の対象外なので、必要に応じて民間保険等で補完
マイクロ法人スキームの価値は「払う保険料が減る」だけでなく「万一のときの給付の器が変わる」ことにもあります。特に出産を予定している方、健康リスクが気になる方は、この給付面も含めてトータルで判断してみてください。
※本記事は2026年7月時点の法令・運用を前提とした、筆者個人の理解と顧問税理士から聞いた内容に基づくものです。実際の判断は、顧問税理士・各機関にご確認のうえご自身の責任でお進めください。
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