【2026年版】マイクロ法人で従業員を雇うとどうなる?社会保険・労働保険の負担とスキームへの影響

法人設立
【2026年版】マイクロ法人で従業員を雇うとどうなる?社会保険・労働保険の負担とスキームへの影響

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「マイクロ法人の仕事が忙しくなってきた。アルバイトを1人雇ったらダメなの?」
「従業員を雇うと社会保険料はいくら増える?」
「外注(業務委託)なら保険に入れなくていいって聞いたけど本当?」

マイクロ法人は、そもそも「役員一人だけ」を前提に設計された器です。ここで言うマイクロ法人とは、個人事業主が本業と別に設立する役員一人の法人(合同会社が主流、株式会社でも可)で、役員報酬を最低ラインに置くことで社会保険料の負担を最小化する「マイクロ法人スキーム」の中核装置のこと。スキームの全体像・節約額・リスクはマイクロ法人 社会保険料削減スキームの完全解説にまとめています。

この器に「人を雇う」という要素を持ち込むと、何が起こるのか。私も一度、繁忙期にアルバイトを雇おうかと顧問税理士の先生に相談したところ、「雇った瞬間に、この法人の性格が変わりますよ。負担と事務量を先に見てから決めてください」と言われ、思いとどまった経験があります。この記事では、

  • 正社員を1人雇うと発生する保険料負担と事務負担の全体像
  • パート・アルバイトの社会保険・雇用保険の加入ライン
  • 業務委託(外注)で済ませる場合の条件と「偽装請負」リスク
  • 家族に手伝ってもらうなら「従業員」ではなく「役員」という定番
  • 人を雇う規模になったら事業をどこに置くべきか(スキームの王道)

を順に整理します。

正社員を雇うと何が起こるか:保険料と事務負担の全体像

常時使用する従業員(正社員)を1人雇うと、法人には次の負担が発生します。

① 社会保険の会社負担分:給与の約15%が上乗せ

法人は従業員数にかかわらず社会保険の強制適用事業所なので、正社員は健康保険・厚生年金に必ず加入します。保険料は労使折半で、会社負担分は健康保険約5%+厚生年金9.15%+子ども・子育て拠出金などを合わせて給与の約15%が目安。月給25万円の人を雇えば、給与とは別に会社が月約3.8万円、年間45万円前後を負担する計算です(2026年時点の目安)。

② 労働保険(労災+雇用保険)も必須

役員だけの間は無縁だった労働保険も、従業員を1人でも雇えば加入義務が生じます。

  • 労災保険:保険料は全額会社負担。料率は業種によって異なる(事務系なら低率)
  • 雇用保険:週20時間以上等の要件を満たす労働者が対象。保険料は労使で負担するが会社負担のほうが重い設定

③ 事務負担が急増する

金額以上に効いてくるのがこちらです。毎月の給与計算と源泉徴収、年末調整、労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届、雇用契約書の作成、労働条件通知、時間外労働をさせるなら36協定の届出、労働基準法に沿った勤怠管理…。役員一人なら数時間で済んでいた事務が、雇用した瞬間に別次元の量になります。維持費が安いことがマイクロ法人の生命線だとすれば(合同会社の維持費参照)、雇用はその生命線を直撃します。社労士や給与計算ソフトへの外注費も現実には必要になるでしょう。

パート・アルバイトなら大丈夫?加入ラインの正確な理解

「じゃあ短時間のパートなら」という発想は、半分だけ正解です。加入義務のラインを正確に押さえましょう。

制度 加入ラインの目安(2026年時点)
社会保険(健保・厚年) 週の所定労働時間が正社員の4分の3以上。それ未満でも、週20時間以上・月額賃金8.8万円以上等の要件を満たす短時間労働者は適用対象(適用拡大が進行中で、企業規模要件は段階的に撤廃の方向。賃金要件も見直しの動き)
雇用保険 週の所定労働時間20時間以上+31日以上の雇用見込み
労災保険 労働時間にかかわらず、雇えば全員が対象

つまり、週20時間未満に抑えれば雇用保険・社会保険の加入対象からは外せます(労災だけは必ず付く)。ただしここに実務の落とし穴があります。契約上は週18時間でも、恒常的な残業で実態が20時間を超えていれば、遡って加入を求められるリスクがあるのです。適用拡大はこの数年で段階的に進んでおり、「昔は対象外だった働き方」が対象に入ってくる流れは今後も続くと見ておくべきです。ラインぎりぎりの設計は、制度改正のたびに見直しが必要になります。

業務委託(外注)なら保険は不要。ただし「偽装請負」に注意

人手が欲しいとき、雇用ではなく業務委託(外注)で頼む方法があります。委託先が個人事業主なら、社会保険・労働保険の加入義務も会社負担も発生せず、支払った外注費は経費になります。マイクロ法人の器を保ったまま人手を確保する現実的な手段です。

ただし、ここには誠実に触れておくべきリスクがあります。契約書の名前が「業務委託」でも、実態が雇用なら「偽装請負・偽装フリーランス」と判断されることです。判断の主な要素は次のとおりです。

  • 指揮命令:仕事の進め方・手順を細かく指示しているか(委託なら成果物ベースが原則)
  • 時間・場所の拘束:出勤時間や勤務場所を指定しているか
  • 専属性:他社の仕事を受けることを事実上禁止していないか
  • 報酬の性格:成果への対価か、時間に対する対価(時給的な支払い)か

実態が雇用と判断されれば、遡って社会保険・労働保険の加入や未払い残業代の問題が生じ得ます。また2024年施行のフリーランス新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)により、個人への業務委託には取引条件の明示や報酬の支払期日などのルールが課されており、発注者側の義務も増えています。「外注にすれば全部フリー」という時代ではありません。

家族に手伝ってもらうなら:「従業員」ではなく「役員」が定番

「配偶者に事務を手伝ってもらいたい」というケースは、マイクロ法人では非常によくあります。このとき、配偶者を従業員として雇うのではなく、役員(業務執行社員・取締役)に加えるのが定番の設計です。理由はシンプルで、

  • 役員なら労働保険(労災・雇用保険)の対象外で、労働基準法の勤怠管理も不要
  • 役員報酬の設計次第で、扶養の範囲内に収める・あえて社保に入れるの両方を選べる
  • 非常勤で報酬が低額なら、社会保険の加入義務が生じない場合もある(年金事務所の個別判断)

といった具合に、雇用に伴う負担の大部分を避けながら家族に報酬を出せるからです。具体的な手続きと報酬設計は配偶者をマイクロ法人の役員にする方法で、夫婦での法人運営全般は夫婦で会社設立するメリットと注意点で詳しく解説しています。ただし、実態のない家族への報酬は税務調査で否認され得るため、業務内容の記録は残しておきましょう。

スキームへの影響:マイクロ法人は「一人の器」のまま守るのが王道

最後に、スキーム全体への影響を整理します。従業員を雇うことは違法でも禁止でもありません。しかし、

  • 会社負担15%+労働保険で、「保険料を最小化する」というスキームの目的と真っ向から矛盾するコストが発生する
  • 給与計算・労務管理で、「維持の手間が小さい」というマイクロ法人の利点が消える
  • 事業が拡大している証拠でもあり、役員報酬だけ最低等級に据え置く姿が実態との乖離として目立ちやすくなる(スキームの否認リスク全般はマイクロ法人の否認リスク10論点参照)

という三重の意味で、スキームの前提を崩します。顧問税理士の先生の言葉を借りれば、「人を雇う規模の事業は本業側(個人事業、または本業の事業法人)でやる。マイクロ法人は一人の器のまま太らせない」のが王道です。マイクロ法人側の事業が人手を要するほど育ったなら、それは喜ばしいことですが、その事業をどちらの器に置くかは設計し直すタイミングだと考えてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 従業員を1人でも雇ったら、マイクロ法人スキーム自体が崩壊しますか?

A. 即崩壊ではありません。社長自身の役員報酬を最低等級にする仕組み自体は残ります。ただし従業員分の会社負担・労働保険・事務コストが新たに発生するため、スキームで浮かせた金額が相殺されていきます。「何のためのマイクロ法人か」を数字で見直すきっかけにしてください。

Q. 週20時間未満のアルバイトなら、保険関係は何もしなくていいですか?

A. いいえ、労災保険だけは労働時間にかかわらず必要です。雇った時点で労働保険の成立手続き(保険関係成立届)を行い、少額でも労災保険料を納めます。雇用保険・社会保険は週20時間未満なら対象外にできますが、実態の労働時間で判定される点に注意してください。

Q. 繁忙期の1〜2か月だけ短期バイトを頼む場合は?

A. 2か月以内の期間を定めた雇用で、契約更新の見込みがない場合は社会保険の適用除外となる余地があります(雇用保険は31日以上の見込みで対象)。ただし当初から更新が予定されていると判断されれば最初から加入です。短期でも労災は必要、給与の源泉徴収も必要です。

Q. 個人事業側で従業員を雇う場合も同じ負担ですか?

A. 個人事業主の場合、常時5人未満の従業員なら社会保険は任意適用(業種による)で、強制ではないケースがあります。労働保険は個人・法人を問わず必要です。この差も「雇用は本業の個人事業側で」という設計が語られる理由の一つですが、要件が細かいため個別に確認してください。

Q. 外注先が「専属でフルタイム稼働」してくれています。問題ありますか?

A. 危険信号です。専属性が高く、時間拘束と指揮命令があり、時給的な報酬なら、実態は雇用と判断されるリスクが高い状態です。成果物ベースの契約に改める、他社との取引を制限しない、進め方を相手に委ねるなど、実態から整えてください。判断に迷う場合は社労士・税理士への相談をおすすめします。

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まとめ:雇う前に「どの器で雇うか」を設計し直す

この記事の要点を整理します。

  • 正社員を雇うと、社会保険の会社負担(給与の約15%目安)+労働保険+給与計算・年末調整・労基法対応の事務負担が一気に発生する
  • パートは週20時間・月額8.8万円等のラインが目安。適用拡大が進行中で、恒常的な残業による実態超えは遡及加入リスクがある
  • 業務委託なら保険負担はないが、実態が雇用なら偽装請負と判断されるリスク。フリーランス新法で発注者の義務も増えている
  • 家族の手伝いは「従業員」ではなく「役員」にするのが定番。労働保険の対象外で、報酬・扶養の設計自由度も高い
  • 人を雇う規模の事業は本業側の器で。マイクロ法人は「一人の器」のまま維持するのがスキームの王道

人手が必要になるのは事業が育っている証拠です。だからこそ、勢いで雇う前に「どの器で、どの形(雇用・委託・役員)で人に関わってもらうか」を一度立ち止まって設計してください。その一手間が、スキームの土台と労務トラブルの両方からあなたを守ってくれます。

※本記事は2026年7月時点の法令・運用を前提とした、筆者個人の理解と顧問税理士から聞いた内容に基づくものです。実際の判断は、顧問税理士・各機関にご確認のうえご自身の責任でお進めください。

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