【2026年版】2社目のマイクロ法人で社会保険料は下がらない?複数法人の社保合算ルールを解説
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「すでに会社を経営しているけど、報酬の安いマイクロ法人をもう1社作れば社会保険料が下がるって本当?」
「2社から役員報酬をもらったら、保険料は安いほうの会社で計算されるの?」
「社会保険料が安くなる二刀流って、法人+法人でもできるの?」
結論から言うと、2社目のマイクロ法人を作っても、社会保険料は下がりません。ここで言うマイクロ法人とは、役員一人だけの小さな法人(合同会社が主流、株式会社でも可)を本業とは別に持ち、役員報酬を最低ラインに設定して社会保険料の負担をぐっと軽くする「マイクロ法人スキーム」で使う器のことです。スキームの全体像はマイクロ法人 社会保険料削減スキームの完全解説にまとめていますが、あの仕組みが効くのには構造上の条件があり、「すでに法人社長の人」はその条件から外れています。
私自身も設立を検討していた頃、「じゃあ将来もう1社作ればさらに下がるのでは?」と考えて顧問税理士の先生に聞いたところ、「それは合算ルールで完全に封じられています」と一刀両断されました。この記事では、
- なぜ2社目のマイクロ法人では保険料が下がらないのか(合算ルールの仕組み)
- 「二以上事業所勤務届」と保険料の按分の流れ
- マイクロ法人スキームが「個人事業+法人」でしか成立しない構造的な理由
- すでに法人社長の人が保険料・手取りを見直す正しい打ち手
- それでも2社目設立に意味があるケースと、注意すべき税務リスク
を順に解説します。
結論:2社目の法人を作っても社会保険料は1円も下がらない
よくある誤解はこうです。「今の会社で役員報酬50万円を取っているから保険料が高い。役員報酬4.5万円のマイクロ法人をもう1社作って、そちらで社会保険に入り直せば、保険料は最低等級になるはずだ」。
残念ながら、こうはなりません。複数の法人から役員報酬を受け取る場合、社会保険は「どちらか1社を選んで加入」ではなく、「全社の報酬を合算して保険料を決める」仕組みになっているからです。50万円+4.5万円なら、合計54.5万円をベースに標準報酬月額が決まります。合計の報酬が変わらない限り、会社を何社に分けても保険料の総額はほぼ変わりません。むしろ2社目の設立費・維持費(法人住民税の均等割など)が上乗せされる分、トータルではマイナスになります。
仕組み:「二以上事業所勤務届」と報酬の合算・按分
複数の法人で社会保険の加入要件を満たす(=それぞれから役員報酬を受け取る)場合の実務の流れは、次のようになります。
- ① 各法人で資格取得:役員報酬を受け取る法人それぞれで、健康保険・厚生年金の被保険者資格が発生する
- ② 「二以上事業所勤務届」を提出:正式には「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」。主として手続きを行う事業所(選択事業所)を自分で選んで届け出る
- ③ 標準報酬月額は全社の報酬を合算して決定:例えばA社50万円+B社4.5万円なら、合算54.5万円で等級が決まる
- ④ 保険料は報酬額に応じて各社に按分:合算で計算された保険料を、各社の報酬の比率で割り振って、それぞれの会社が納付する
ポイントは③と④です。B社(マイクロ法人)の報酬を4.5万円にしても、B社が按分負担する保険料が少なくなるだけで、A社とB社を合わせた保険料の総額は「合算報酬54.5万円の人」として計算されたまま。個人の手取りから見れば何も変わりません。届出をせずに片方の会社だけで加入し続けるのは適正な手続きではなく、年金事務所の調査で遡って訂正される可能性もあります。
なぜ「個人事業+法人」の二刀流だけが成立するのか
ではなぜ、個人事業主のマイクロ法人スキームは成立するのでしょうか。それは、個人事業主が入っている国民健康保険・国民年金と、法人の健康保険・厚生年金は「別の制度」であり、合算の仕組みが存在しないからです。
| 組み合わせ | 保険料の決まり方 | スキームの成否 |
| 個人事業+マイクロ法人 | 法人で社保に加入すると国保・国民年金から抜ける。保険料は法人の役員報酬(最低等級)だけで決まり、個人事業の所得は影響しない | 成立する |
| 法人+マイクロ法人 | 両社とも同じ社会保険制度の中。報酬は合算され、保険料総額は変わらない | 成立しない |
つまりマイクロ法人スキームの正体は、「安い会社を作ること」ではなく、「所得に比例する国保・国民年金の世界から、報酬額で決まる社会保険の世界へ、最低等級で乗り換えること」です。すでに社会保険の世界にいる法人社長には、乗り換えるべき「外側」がありません。個人事業と法人をどう役割分担させるかは個人事業主との二刀流戦略で詳しく解説しています。
すでに法人社長の人が取るべき打ち手は「報酬設計の見直し」
「じゃあ法人社長は打つ手なしか」というと、そうではありません。ただし論点は2社目設立ではなく、今の会社の役員報酬の設計です。
- 役員報酬の水準そのものの見直し:報酬を下げれば社会保険料も所得税・住民税も下がる。ただし生活資金・法人税とのバランス、定期同額給与のルール(期中の変更は原則不可)に注意
- 報酬と配当・賞与の組み合わせ:事前確定届出給与(役員賞与)は社会保険料の上限の仕組みとの関係で設計の余地があるとされる。ただし税務・年金額への影響が複雑で、税理士との綿密な設計が前提
- 法人にお金を残す設計:個人に移す額を必要最小限にし、法人内で運用・投資する考え方
顧問税理士の先生いわく、「法人社長の社会保険料の相談は、9割が報酬設計の話に帰着する」とのこと。役員報酬をいくらに置くのが最適かは役員報酬はいくらが最適かで詳しく整理しています。
それでも2社目を作る意味があるケース(と、注意すべきリスク)
社会保険料の削減にはならなくても、2社目の設立自体が合理的な場面はあります。誠実に整理しておきます。
- 事業リスクの分離:失敗リスクの高い新規事業を別法人に切り出し、本業への波及を防ぐ
- 許認可・業法の都合:業種によっては別法人でないと許認可が取りにくい、取引先の要請で分ける必要がある
- 共同経営の整理:パートナーとの共同事業だけを別法人にして、資本関係や意思決定を切り分ける
一方で、消費税の免税期間を目的にした分社(売上を2社に分けて両方を免税事業者に見せる等)は、租税回避と見られるリスクが高い領域です。法人税法には同族会社の行為計算否認という規定があり、事業の実態がない分社は税務調査で否認される可能性があります。「2社目で節税」という営業トークを聞いたら、まず疑ってかかるくらいでちょうどよいと感じます。スキーム全般の否認リスクはマイクロ法人の否認リスク10論点にまとめています。
「法人を畳んで二刀流に組み直す」という選択肢はあるか
理屈のうえでは、もう一つの道があります。本業の法人を解散して個人事業に戻し、あらためて「個人事業+マイクロ法人」の二刀流に組み直す方法です。こうすれば構造上はスキームが成立します。
ただし、これはかなり重い決断です。法人の解散・清算には登記費用や清算手続きの手間がかかり、取引先との契約・従業員・借入・許認可をすべて巻き直す必要があります。法人名義の信用で成り立っている取引があるなら、失うものの方が大きいかもしれません。「保険料の差額×何年分」で元が取れるのか、事業の将来像と合わせて冷静に試算すべきで、保険料だけを理由に飛びつく判断ではないと考えています。迷ったら顧問税理士に総合的な損得を試算してもらうことを強くおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q. 2社目の役員報酬を「ゼロ」にすれば、届出も合算も不要ですか?
A. 役員報酬が無報酬なら、その法人では社会保険の加入資格自体が生じないのが原則で、二以上事業所勤務届も不要です。ただしそれは「2社目では保険料が発生しない」だけで、1社目の保険料は今までどおり。保険料削減の効果はゼロです。無報酬法人には維持費だけがかかる点にも注意してください。
Q. 片方の会社にだけ黙って加入し続ければバレませんか?
A. おすすめしません。複数社から報酬を受けているのに届出をしない状態は適正な手続きではなく、年金事務所の調査や算定基礎届の確認で判明すれば、遡って標準報酬月額を訂正され、差額保険料を追徴される可能性があります。最初から正しく届け出るのが結局いちばん安全です。
Q. 1社目が非常勤で報酬が少額なら、合算されないこともありますか?
A. 役員の社会保険加入は「経営への関与の実態」等で個別に判断され、非常勤で労務の実態が乏しい場合は被保険者に該当しないとされるケースもあります。該当しなければ合算の対象にもなりません。ただしこの線引きは年金事務所の個別判断の要素が強いため、自己判断せず事前に確認してください。
Q. 法人社長ではなく「会社員」ですが、副業でマイクロ法人を作れば保険料は下がりますか?
A. 下がりません。会社員も勤務先で社会保険に加入しているため、法人社長と同じ構造です。副業法人から役員報酬を取れば二以上事業所勤務届の対象となり報酬は合算、勤務先に副業が知られるきっかけにもなり得ます。マイクロ法人スキームの対象者は、あくまで国保・国民年金を自分で払っている個人事業主・フリーランスです。
Q. 妻(夫)を代表にして2社目を作れば、私の保険料と切り離せますか?
A. 配偶者が実態として経営し報酬を受けるなら、それは配偶者自身の社会保険の話であり、あなたの保険料の削減にはなりません。名義だけ配偶者にして実態はあなたが経営している場合、税務・社会保険の両面で問題になり得ます。家族を巻き込む設計は慎重に検討してください。
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まとめ:マイクロ法人スキームは「法人を増やす」話ではない
この記事の要点を整理します。
- 2社目のマイクロ法人を作っても社会保険料は下がらない。複数法人の報酬は「二以上事業所勤務届」で合算され、保険料は各社に按分されるだけ
- スキームが成立するのは「個人事業(国保・国民年金)+マイクロ法人(社保)」の組み合わせのみ。法人+法人では構造的に成立しない
- すでに法人社長の人の打ち手は、2社目設立ではなく本業法人の役員報酬設計の見直し
- 2社目に意味があるのはリスク分離・許認可・共同経営の整理など事業上の理由がある場合。免税目的の分社は否認リスクが高い
- 法人を畳んで二刀流に組み直す道もあるが、コストと手間が大きく、保険料だけを理由に選ぶ判断ではない
マイクロ法人スキームは魔法ではなく、制度の境界線をまたぐ人だけが使える仕組みです。ご自身がどちら側にいるのかをまず確認し、法人社長の方は報酬設計という王道から手を付けてみてください。
※本記事は2026年7月時点の法令・運用を前提とした、筆者個人の理解と顧問税理士から聞いた内容に基づくものです。実際の判断は、顧問税理士・各機関にご確認のうえご自身の責任でお進めください。
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